「世田谷区は待機児童ゼロ!」と、2020-22年に3年連続で発表されたことはメディアで報じられるとおりですが、 1月末に結果の出た2023年4月入園に向けての認可保育園の入園選考の状況を見ると、未だにTwitter上には一定の方が保育園に落ちたとの投稿をされていました

「保育園落ちたのに、なんで待機児童ゼロなんて 理不尽だ!」 「算定方法を変えて、待機児童ゼロなんて おかしい!」という当事者の怒りもごもっともなので、一つ一つ事実を検し、 最後には今からでも何としても4月1日に仕事に復帰する方法をいくつか例示します

これまでの経緯

世田谷区は、2012年当時 横浜市(日本最大の市区町村)が待機児童を減らすために導入した 「保留児童」(=保育園に入園できないため育児休業を延長した場合は待機児童から除外) という概念を創出した頃から、待機児童ワースト1自治体として注目されるようになりました

※現在の横浜市は、2017年3月の厚生労働省 保育所等利用待機児童数調査要領の改正に沿って、育児休業全てを待機児童から除外はせず、復職意思が確認できる場合には待機児童数へカウントしています
 

世田谷区の待機児童数の推移 2012-22

世田谷区は23区中、人口数が圧倒的1位(2位グループの練馬・大田・江戸川・足立より約20万人多い)であり、人口・子どもの数に比例して待機児童が増えることはやむを得ないようにも見えますが、 待機児童の割合について 過去 23区で割合を比較したところ、割合で見ても残念ながら23区中1位という時期(2015年)もあり、人口に比例するだけでなく、マンション建設 増に伴う年少人口増や、女性の出産後の就業継続率の向上に伴うニーズ増に対して、対応が後手に回り 23区でも最も待機児童になりやすい街でもありました

その間 区が何をしていたか振り返ると、例えば国が保育園増設のために株式会社運営の認可保育の参入を認めた2000年の後も、世田谷区は2013年まで、株式会社運営の保育園の参入を許しませんでした

一方で解禁の翌年2014年の保育園利用者からの評価をランキングにした記事では、株式会社運営の保育園の評価が高いことが示されており、法人の形態だけで門前払いをした合理性が低かったことが分かります

また、東京都が独自に用意した待機児童へのベビーシッター補助制度についても、他区が導入を決める中、世田谷区は密室での1:1の保育のリスクから導入せず、 総じて、2020年4月の待機児童ゼロが達成されるまで、世田谷区の保育待機児童対策は、あらゆる手法のベストミックスと言うよりは、認可保育園 増設の一本で推進してきました



そもそも世田谷区は2020年4月のゼロを諦めていた?

2020年4月の待機児童ゼロについては、 ①2019年度 新設の進捗  目標1,387人分に対して、着地数802人分 ②申込者数  全体:2019年 6,447人に対して、2020年 6,643人  0-2歳:2019年 5,225人に対して、2020年 5,402人 と、前年と比較しても材料は芳しくなく、11月以降の区議会・委員会でも、区長・副区長から目標達成が困難であるという発言があり、ゼロの期日について2021年4月に変更されていました

・2019年11月 本会議:副区長

今年度の保育定員の拡大につきましては1387人を計画目標としておりましたけれども、現時点で897人分の定員増の見込みとなっており、結果、待機児童ゼロを達成できる見込みが、計画策定段階に比べまして厳しくなってきているとの認識に立っております

・2020年2月 本会議:区長 保育定員の確保数が計画に対して490名分届かないことや、来年度4月の入園申込者数が昨年比で約200名増加しているなど、この4月にもまだ待機児童の発生が見込まれます。目標としてきた2020年4月の待機児童ゼロを達成できなかったことに対して、大変申しわけなく思っています。 現在策定中の次期の世田谷区子ども・子育て支援事業計画案では、令和2年(※2020年)度の定員拡大により令和3年、2021年4月の保育待機児童の解消を目指し、保育環境整備に全力で取り組んでいきます。

未達成の見込みがあり、また申込者増もあったにもかかわらず、2020年4月時点に想定外の(少なくとも公表数値上は)待機児童ゼロとなりました



それでも待機児童がゼロになった訳

大きく分けて、

A.区による努力 ・認可保育園の増設 ・2019年9月以降の育児休業 取得希望者の選考からの除外 B.保育への市場の参入 ・企業主導型保育の枠組みで、区の整備とは別軸で2016年以降 38施設が増加

C.環境の変化 ・0-5歳人口のピークアウト ・申込者数の安定・減少 が挙げられます

一部、解説を入れると、

A-1.認可保育園の増設

保育園が徐々に増えてきた、10年前の2012年から比較すると

2012年:施設数:109 利用者数:9,354人 2022年:施設数:247 利用者数:18,520人 (2022年が公表前のため2021年) ※分園は個別にカウント   ・施設数:231% 利用者数:198%と、正に激増させました

その結果、区の予算全体に占める保育予算の割合は、 2012年:全体予算:2,427億 保育予算:172億(全体の7.1%) 2022年:全体予算:3,336億 保育予算:457億(全体の13.7%) と、この10年の909億の予算増のうち、実に286億(予算増のうちの3割以上)が保育園であり、 他の予算増に類を見ないペースと配分で増やしている(=区として注力してきた)のも事実です

A-2.  2019年9月以降の育児休業 取得希望者の選考からの除外

育児休業は子どもが1歳になるまでが原則となるため、新年度の4月や人事異動の多い10月に合わせて入園しようとすると、例えば4月入園を目指すにも6月生まれであれば翌年4月に0歳9ヶ月時点で少し切り上げる必要があり、逆に1月生まれであれば翌年4月まで1年2ヶ月まで2ヶ月超 育児休業を延長をする必要があります

育児休業の原則である1年を超えて延長を申請したい場合には、上記の1月生まれの例のように”例外として延長を認めてもらうため”に入園待機通知書・(入園)不承諾通知書といった入園できなかった確認の書類が必要となり、こうした制度のため わざわざ書類一式を提出する必要があります

そのため本当は4月に1歳0ヶ月で復帰の強い意向はなく 可能であれば1歳6ヶ月や2歳0ヶ月で復帰をしたいと考える場合にも、なんとしてもに復帰したい人とまとめて一度入園選考を経る必要があり、場合によっては希望が高くなくとも入園可能になって土壇場で辞退するといった”入りたい人と入りたくない人が逆転するケース”も多く起きていました

入園選考と育休延長手続を同じ枠組みの中で処理しなければならない制度に、世田谷区長・世田谷区役所として一石を投じて、2019年9月以降は育休延長希望者の優先順位を最下位と扱うことで、実質的に住み分けて処理することが可能となりました

(筆者・そのべせいや も、保育園の利用希望者と育休延長の希望者を分けて取り扱い、利用希望者を優先・育休希望者は待機児童から除外する仕組への改善を区議会議員として初めて提案しました)

B.企業主導型保育の枠組みで、区の整備とは別軸で2016年以降 38施設まで増加

2016-2019年を中心に、多数の待機児童と区の整備が追いついていない現状にビジネスチャンスを感じた民間の努力・参入があり、区が企業主導型保育事業として公式に集計を開始した2020年以降も7施設増えています ※完全に民間の自由なビジネスというわけではなく区役所としても、企業主導型保育が突然閉園した際の対応や情報共有を構築したり、安全担保のための監査を担ってきたという努力も裏にはあります

C-1.  0-5歳人口のピークアウト

新型コロナ以前(2017年)の世田谷区の推計では、 0-5歳の人口≒毎年の出生数は2023年まで横ばいで推移、その後2042年まで一貫して増加する想定でしたが、 2016-2019年をピークに4.4万→2030年頃には更に3.5万人程度へ減少する予測に修正され、 増やすのが難しい供給に対して、皮肉にも需要の減少(出生減)により需給のバランスが取れるようになってきました

世田谷区 将来人口推計(2022.07) P22より引用 https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/001/003/007/d00160817_d/fil/202207zinkousuikei.pdf (PDFファイルです)

加えて やっと国会でも議論が活発になってきましたが、昨今の出生数の急減や日本の出生の基になる婚姻の減少を加味すると更なる減少も予測されます 

C-2.申込者数の安定・減少

ピーク時には6,680人だった申込者数も、6,000-6,100人程度まで落ち着き、2023年4月入園選考については ぴったり6000人となりました

待機児童が落ち着いたからこそ、入園選考にエントリーすらできなかった出生前の家庭についても選考対象とすることができるようになりました(2023年4月については上記6000人に含まれています) 筆者自身も子どもが早生まれのため、1次申込の11月・2次申込の2月時点で生まれていないと申請できない仕組みが改善されたことは改善と捉えています

世田谷区の認可保育園 申込数の推移 2012-23



何故、入園できないのに、「待機児童」はいなくなったのか

2022年度 保育待機児童等の状況について(世田谷区 保育部 2022.05) https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/002/d00199228_d/fil/20.pdf  (PDFファイル)

認可保育 利用不可:1,128 (認可保育 入園選考申込者全体から利用可能者を引いた数) − 積極的な育休希望者:527 (保育園利用ではなく 入園待機通知書のみの希望者) を除き、実質的な認可保育の利用不可能者の数(601)が出ます

この利用不可能者:601から − 4月時点の公的助成のある認可外保育 等※が利用できているケース:254 を更に除き、347となります ※保育室・保育ママ・認証保育所・幼稚園の預かり保育・定期利用保育事業・企業主導型保育・事業認可外保育施設のうち、世田谷区による指導監督基準を満たす認可外保育施設、のことを指します

更に、公的助成のある保育利用が叶わなかったケース:347から、 − 積極的な復職意思がアンケートで確認できないケース:98 − 待機通知の後、求職活動を休止していることが確認できたケース:4 を除き、245となります

最後にこの245について、 自宅から半径2km(通園時間が片道30分未満を基準とする)に、当該年齢に認可保育・公的助成のある認可外保育 等(前述のとおり)に空きがあるケースを除外すると、

現在の世田谷区は4月・5月時点では利用を望むのであれば近隣でどこかの保育施設は利用できる状態になってきましたので、4月1日時点では245家族 全てが待機児童の対象から除外され、最終的に待機児童がゼロと定義されます これが厳密な「待機児童ゼロ」が表している意味です

「認可保育こそが保育である」という立場(児童福祉法24条1項を文言通りに解釈する立場)に立てば、601の認可保育利用 不可能者がいます また、「認可外や幼稚園の預かり保育等も含めた、実体的な公的保育利用者の数で見るべき」という立場に立てば、347の保育利用 断念者がいます

その上で、国の掲げる「待機児童」の計算式の範囲内で算出すると、確かに世田谷区の「待機児童」はゼロになりますが、 主に上記の347家族、そしてなんとか4月1日までに自ら認可外保育園を探し出し利用先を確保した254家族が「待機児童」ではないとは言えど、保育園に落ちた人、保育園に落ちて生活が一変した人たちではないでしょうか


世田谷区は「待機児童」の算定方法を操作したのか?

一部報道等で、世田谷区は算出方法を変更した、という表現もありましたが 以前の資料と比較をすると1点項目を削除、もう1箇所 表現を変更しています

2019年度保育待機児童等の状況について(世田谷区 保育担当部 2019.05) https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/002/d00166439_d/fil/14.pdf (PDFファイル)

入園選考前の除外については前述したとおりの経緯ですが、入園選考後の状況把握も2021年より改めて行なう体制となっています

もう1点、表現を変更した箇所については、 以前:⑦自宅から30分未満(半径2km以内)で登園可能な距離の特定教育・保育施設等に空きがありながら入所していない児童数 現在:⑦自宅から30分未満(半径2km以内)で登園可能な距離の特定教育・保育施設等に空きがありながら入所出来ていない児童数と趣旨は変わらず、 従来は入所していない実態を表していたところから、現在は入所していない理由も含め、少し含みを持たせる表現に変更しています

以上の変更点について、「算出方法」の「変更」と表現するのか、どうかは考え方によりますが、 算出方法を変更したというより、区の変更は育休取得希望者を選考から除外して入園希望者を優先した(+表現を僅かに修正した)ことだと理解しています


どんな人が入園できなかったのか?

区が詳細を分析した2021年4月について、半径2km以内の保育園に入園しなかった295家族のうち 10月時点での申込みは62の申込に留まり、約8割は継続した入園意思は示さなかった(再度の申込をしなかった)ということでした

※不承諾通知(=引き続きの入園希望意思)は発行から効力が6ヶ月のため、入園意向がある場合には少なくとも6ヶ月を経過した10月に再度申込をするシステムになっています

このことから ・調査時点の後に空いている認証保育所を利用した (認証保育所の利用補助についてはそれ以外の認可外保育施設の利用と異なり、認可保育の申込が要件とならないため4月の入園選考やその後の状況と照合をしていません) ・当該年度の入園を諦めた という2点が想定されます

また2020年度の分析では4月選考で入園できなかった474家族のうち、世田谷区の設定する保育の利用指数上、100点 未満の家庭が298(63%)とのことでした この”100点”という数字の示す意味は、平日にフルタイムで働いている場合を中心に、就学・介護・長期療養中・障害 等についてそれぞれ長時間、あるいは必要性の高い理由がある方を50点として評価、それが2人(両親)分で100点となるためフルタイムで保育が必要かどうかという基準点となります 加えて ひとり親でフルタイムの場合には調整基準と合わせて原則 更に高い110点・120点となりますので、各家庭において申込時点でフルタイムでの保育利用が必要不可欠かのひとつの判断基準となります これらを下回る場合には、逆に言うと、保護者の1人(もしくは2人)が求職中(2020年4月:100人 超)、保護者の1人(もしくは2人)が短時間就労予定(2020年4月:150人 超)、またはこれらと同等に週5日8時間就労ではない場合となります

世田谷区 保育のごあんない https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kodomo/003/001/001/d00005724_d/fil/goannai0409.pdf (PDFファイル)

一方で、2020年度には176(37%)いたの100点 以上の入園できなかった中でも、様々な理由からフルタイムでの保育へのニーズが高いにもかかわらず、4/1時点では保育を利用することはありませんでした(できなかった・選択しなかった)し、2人の求職者は保育園が利用できないことで求職活動を一旦休止することとなりました

これまで最も問題視されていた「待機児童」そのものは発生しませんでしたが、世田谷区の保育園利用希望者の中にライフプランを変えざるを得なかった人や家族がいたことは紛れもない事実です

またニーズが顕在化されているフルタイム利用が優先されることは理解をする一方、育児休業制度がないため一度退職して改めてお金を稼ぐ必要があるからこそ求職したり、フリーランスの方が仕事量を調整しながら復帰する場合については自分で子どもをみる余裕があると認定され、ニーズの低い人と見なされてしまってきたことは 国が設定した育児休業という制度で助けられない人が地方自治体の保育制度からもこぼれ落ち、セーフティーネット政策として十分に機能していません

加えて育児休業を取得した方は入園選考後に転職することが区役所から禁止されており(育休から復帰したことが加点対象となっているため条件が変わるので再選考が必要になる)、 例えば派遣社員から派遣先に直接採用されるようなキャリアアップは雇用主が変更されるため禁止(再選考の対象)となりますが、 一方 就労を継続しているパートナーは育休復帰の加点の対象ではないため、就業時間さえ変わらなければ自由に転職も起業も可能です 既に育休のないフリーランスも同等に復帰時に加点されるようになった今、こうした育休を取得した方のみが区役所によってキャリアを阻まれる制度的な不公平も解消していかなくてはなりません


4月以降も入園可能な保育園はどこだったのか

これまで待機児童の多かった0-2歳について、4月以降も入園が可能だったのは下記のとおりとなります

《認可保育》

傾向から言えば、4月1日時点で空きが出た保育園は、 全体:0-2歳児クラスのみの園で、3歳児クラスで転園(要は再度の保活)が必要となる小規模施設

※エリア独自の傾向 三軒茶屋・下北沢・区役所周辺エリア(都心に近いエリア):園庭が狭い 環八周辺エリア:駅から遠い・駅から離れる方向 という傾向でした

《認証保育所》

6月以降でも多くの園で入園が可能でしたが、4-5月時点で2歳まで定員が充足している園の傾向は、駅から数分(=駅前一等地)がほとんどです 逆に駅前にこだわらなければ、4月を逃しても入園は可能ですし、法律の枠組みが厳しい認可よりも柔軟な対応が可能(そもそも週5・8時間勤務のような要件も不要)なことから、今後は更に【認可保育園に入れなかった人の受け皿】ではない多様なライフスタイルに寄り添う利用も望まれます

《企業主導型保育事業》

全体的な傾向は認可・認証と変わりませんが、制度自体が2016年に開始したため新規園が多く、特に当該年度開業の園については定員が多く残り、今からの入園も可能な園もまだ残っています

補足:そもそもの制度趣旨が民間企業が従業員のために用意するという意味合いだけでなく、子どもの取り合い競争が生じないよう保育園増設を止めたい認可園の意向を重視する地方自治体の消極姿勢に対して、民間企業が地方自治体に止められることなく市場ニーズ(=待機児童の数)に合わせて自由に場所を選んで開設できる制度だったため、待機児童が定義上ではゼロになった今、新たな需要をどう掴むのかが注目されますが、 既に区内にも英語で保育を行なう園や民間学童の運営する園など”教育”に力を入れて、従来の保育園とは異なる特色を持つ保育園が登場しています

以上、0-2歳児クラスを見ただけでも5月を過ぎた時点で500以上の利用可能なリソースが区内に点在しており、年度当初であれば4月入園を過ぎても選ばなければ利用はできるようになってきたのが、世田谷区の保育園入園のトレンドです

一方で10月を過ぎると一気に利用が難しくなり、年齢×エリアによっては移動可能な範囲(半径2km=距離3km弱:自転車で12分程度)内で利用ができなくなります

2022年度末(2023年2月 現在)は 0歳:企業主導型保育 1歳:企業主導型保育 2歳:企業主導型保育+三軒茶屋周辺 については利用が可能な状態ですが、 特に砧・成城エリアについては企業主導型保育や認可外保育園が少なく、近隣での入園は困難です


保護者から見た「いい保育園」、子どもから見た「いい保育」

保育士経験者として改めて考えて頂きたいことは、前述の駅から遠い・園庭が狭い/ない・2歳児クラスまでしかないという分かりやすいデメリットには保護者に負担があったり、子どもが目一杯遊べないのではという不安もありますが、 本来はそれ以上にぱっと見ただけでは目に見えない部分、一番はどんな保育をどんな人たちが行なっているか、例えば画一的な枠にはめようとするのか 子どもの自主性を重んじるのか、安全配慮に問題はないか、年齢や個性に応じた成長を誘発できているか、子どもが一人の人として尊重されているか、職員の過重労働の上に成り立っていないか(退職者が多くないか)等、 距離や園庭といったラベル化が容易な検索条件以外が子どもの成長に大きな影響を及ぼします

園庭の有無、通園+通勤時間も大切ですが、子どもの気持ちや成長という観点で大切な要素があること(そのために努力している園・保育士がいること)も是非ご理解頂きたいです ※世田谷区では2020-22年に3件の虐待が公表されましたが、区立認可1件・私立認可2件(少なくとも1件は社会福祉法人)であり、運営形態や運営年数、園庭の有無が虐待の有無と関係ないことが分かります


「待機児童」の算出方法はこのままでよいのか?

国が「通園時間 片道30分未満を通園可能圏内」と定義しており、30分という時間を基に半径2kmという距離を区として基準に設定し、そのエリアに入園可能な保育園があれば待機児童の算出からは除外するシステムとなっていますが、 そのエリア内の該当年齢の入園可能な園を保護者が自分だけで探し出し、それに気付かない・制度を知らない場合、また入園可能な園があったとしても入園しないということであれば、待機児童へのカウントをしないのが現在の世田谷区の保育制度の現状です

対象範囲を半径2kmと設定していますが、道のりで考えると最大2√2km=2.83km以内が対象範囲となり、 通園用に電動アシスト自転車は今や必須アイテムではありますが、自転車を時速15km=分速250mとすると2.83kmは信号待ち等を無視すると約11分で、確かに通えない距離ではありません

しかしながら0歳だと安全基準上は自転車のチャイルドシートには乗せられない、雨の日を中心に自転車が使えないといった実情を加味すると、 いわゆる駅から徒歩何分の基準(不動産広告の基準)である徒歩 分速80mで考えると、2830m÷80m/分= 35.4分となり、 ベビーカーや抱っこひも、子ども本人が歩く場合等、子連れで歩くスピードを仮に60m/分と換算すると 国の基準を大幅に超える徒歩47分まで通園圏内となってしまいます

バスでのアクセスがいい場所であれば通えないこともないですが、 半径2km以内という基準で現実的に毎日保育園まで通えるかと問われると、少なくとも2.8kmを徒歩・ベビーカーで通わざるを得ない0歳と、特に雨の日については相当な覚悟を持たなければならず、 こうした点を見ても やはり現代の東京・世田谷の子育ては当事者の覚悟と努力によって成り立っていると言わざるを得ません

一方で乳幼児人口が減少フェーズに入っていることや年度末に入っても入園可能な保育リソースが170あること、既に区内でも認可保育園の定員減・認可外保育園の閉園が起きていることを鑑みると、単純に増やすこと・更に保育のための予算を増やすことへの社会的な理解を得ることは現実的に難しくなっています

現実的には今後更に保育園を街中に分散して増設するよりも、まずは近隣の認証・認可外保育園とのマッチングを推進する保育コンシェルジュ機能の実施(1-3月に認可園に落ちた後は個々人が認証・企業主導型保育・認可外に逐一空き状況を確認をする必要があり、それぞれ電話をされると保育園側としても負担です)、都の用意しているベビーシッター補助制度の区での導入遠くの保育園を利用する際の通園支援(現実的には自転車の購入補助・タクシー代)や保育園に預けた後に近隣で仕事ができるテレワーク環境整備といったあらゆる手段で支援ができる方策を進めたいです (下記のようにエリアによっては今からでも明らかに増設が必要な場所もあります)

 

結論:確かに4月に「待機児童」はゼロになったが、明らかに現時点では存在している

国の定義する待機児童はいなくなりました しかしながら直前に述べたように、制度や情報を知らないため利用できなかった、また様々なリスクやデメリットを考えた結果、最終的には利用をしなかった家族が約250存在します

そして2023年1月に世田谷区役所 保育部に確認をしたところ ・入園希望者(入園不承諾状態):1217  そのうち、認可外保育園利用の補助対象:67 (※4-9月実績)  認証保育所利用者:不明(以下 a人と仮定します) とのことです (認証保育所利用への補助金は、制度上 不承諾通知が必要ないが  認可外保育園利用への補助金は制度上 不承諾通知が必要となるため)

制度上は不承諾の1217から -67と -a をした上で 半径2kmに保育園の空きがない場合には「待機児童」となります

現在の世田谷区は 0歳:区役所周辺/下高井戸-八幡山周辺/環状8号線の外側/自由が丘周辺 1歳:下高井戸-八幡山周辺/環状8号線の外側 2歳:下高井戸-八幡山周辺/環状8号線の外側 に一切の入園可能な保育園がないため、 推定1000家族(1217の入園希望者のうち認証保育所の利用者(上記のa)が150だった場合)のうち、当該エリアにお住まいの方々は定義上 待機児童として分類されます

入園可能な保育園_0歳 2023.02 世田谷区 公式LINE 子育て>保育施設空き情報 キャプチャ

要は4月1日時点で待機児童はいなくとも、年度途中には徐々に入園できなくなり待機児童が発生しているのが世田谷区の実態で ニュースのトピックにはならなくとも当事者にとっては未だに深刻な状況が続いています

※厳密には、入園希望の継続意思がなくなった方と求職を止めた方を除外してから半径2km以内に空きがあるかの確認をする必要がありますが、 入園希望の効力が6ヶ月であることを鑑みると2023年1月も引き続き入園希望のある方についてはの8月以降に再度入園希望を提出された方のみとなりますので入園希望が継続していると見るのが妥当です また保育園に入園できなかったから求職を中断した方を入園待機状態から除外する現制度(国による定義)自体が利用希望者を切り捨てた血の通っていない制度であるため、その分は除かないほうが適切と考えます

年度途中から入園を希望する人は、4月に絶対入園したい人よりも保育の希望が低いので次の4月まで我慢すればよいのでは?と考える方も多いかもしれません しかしながら、突然の死別・離婚、東京転勤・世田谷への急な転居、仕事上の千載一遇のチャンス、11月の申込時点で生後数日・数週間の乳児を4月から預ける申込を記載することに躊躇した方等、 それぞれの人生の個人的な事情で利用開始したい時期が4月にならないケースは往々にして生じます

こうしたそれぞれの事情を「来年4月まで我慢すればよい」と切り捨てて本当にいいのか、 これまで当事者の運と努力に委ね個人の問題として切り捨ててきたからこそ 子どもを産むこと・育てることを諦めざるを得ず、その結果が現在の少子化・人口減少です そしてその影響を受けるのは、時代の変化を見て見ぬ振りをして 下の世代を専業主婦前提の昭和モデルにはめ続けた高齢者ではなく、我々の世代や未来の世代です


 

展望:子育てを当事者に背負わせるか?社会全体で支えるか?

2023年となり やっと政府や自民党が子育て支援の重要性を大きく語り始めましたが、 岸田首相 直下の 全世代型社会保障構築会議が妊娠前〜0-2歳期の支援を最優先で提言したはずが、気付いたら給付の話に大きく傾き、本来期待された環境整備や制度のアップデートは現時点では置き去りにされています

学校であれば当たり前に3学期からでも転入できますが、保育園についても3月まで利用されない入園可能なリソースを保有しておくことは税金の無駄遣い(=入園できない人がいるくらい需要が少し高い方がちょうどいい)なのか、それともユニバーサルサービスとして通年で確保すべきなのか、 どちらを選ぶかで今後の保育・子育て政策は大きく変わります

前述のとおり既に定員減(※定員を減らすと一人あたりの補助金は多くなる)や閉園は徐々に起きていますが、 無駄遣いとして捉えるのであれば、 既に4月時点の「待機児童」は確かに発生しないので今後どんどんフルタイム利用で充足されなかった保育園が縮小・閉園し、その分の予算は縮減できるものの今後も熾烈な入園競争による保護者のキャリアの断念と、それを見た次の世代の産み控えが継続・加速します

翻ってユニバーサルサービスとして担保するのであれば、 特に年度後半になるまでは余裕のある保育リソースを活用し、スポット利用や週に数日、週5日でも1日数時間といった週5日×8時間・10時間という従来のフルタイムではない多様なニーズにも対応が可能となり、 段階的に仕事復帰が可能となったり、子育ての負担が軽減されることで2人目・3人目の子育てにもポジティブになれたり、それを見た次の世代も子育てに希望を持てるようになります

現在まで長らく 子育てと仕事の両立は贅沢なワガママとして矮小化し、ひとり親や貧困家庭を前提にしてきたからこそ、キャリアを手にするには産まないことが正解となってきました 出産も子育ても個人の自由な選択に委ねられるものではありますが、個人に選択が委ねられるようよう 少なくとも産まない・子どもがいない方向へ誘導する様々なバリアは取り除く必要があります

働きながらの子育てに密接に関わる保育については「待機児童」現象の解消で留まらず、学校に受験があっても「入学活動」なる言葉がないよう、「保活」という言葉が消えるまで 特別なことをせずとも利用できるユニバーサルサービスとして社会がコストを負担するしか、子どもがいないことがライフハックとなる風潮は変えられません

 

最後に、現実を見据えて4/1に仕事復帰する方法をいくつか考えましたので、下記の記事を参考にして下さい

【世田谷区編】何としても4月1日に仕事復帰する方法